最高のリネン素材を使って、
長く愛される洋服を生み出していく。
上質なリネン素材を使って、着心地のよいスタイリッシュなモードを追求する。そのフィロソフィーとともにVlas Blommeは2006年に誕生しました。
ベルギーがリネンの産地で、質のよい原料があるらしいという情報を得たことがはじまりでした。パリのクリニャンクールのアンティークマーケットなどでビンテージのリネンをみると、糸が細くて綺麗なものの多くは主にベルギー製であることを発見しました。リネンは時間が経過して色が変わっても、素晴らしい味わいがあります。ブランドとして、本当によいもの、大事にしたいものを作っていきたいと考えたときに、上質なリネンを使った長く愛される洋服というコンセプトが決まりました。
最高のリネンを求めて、
ベルギーのコルトレイクへ。
創業メンバーであり、Vlas Blommeの取締役でもある石井智は、いまではヨーロッパリネン協会からリネンエバンジェリストとして講演に呼ばれるほどリネンに精通しています。ブランド設立以前ヨーロッパで暮らした経験があり、イタリアやフランスでは日常で使うホームテキスタイルにリネンが多用される生活を目の当たりにしました。その経験からリネンに興味を抱いていましたが、当時は、日本でのリネンの流通量はわずかで、業界内でさえリネンの産地がどこなのか明確に理解している人はいませんでした。 そこで、ベルギー大使館に直接連絡して調べたところ、リネン産業の中心の町コルトレイクがあるフランダース地方には昔からリネン畑があり、リネンの原糸やカーペットなどの製品を作っている会社があることを知ります。そして大使館から教えてもらったリネン関連企業十数社すべてに、すぐさまメールとファックス、電話をしたのです。
「それまでヨーロッパのアパレル業界で仕事をしてきた経験から、我々のような始めたばかりの小さい企業に規模の大きい原料関係の会社から簡単に返事は来ないだろうと思っていました」と石井は当時のことを振り返ります。ところが、熱意が伝わったのか、運よく翌週にはリネン糸を製造しているコルトレイクにあるジョス・ヴァネステ社から、フラックス(リネン)の天然糸1kgほどが届いたのです。Vlas Blommeの創業メンバーは、その糸を使ってカーディガンを手編みして、それを持ってコルトレイクを訪ねることにしました。ベルギーから届いたサンプルはリネン100% の太い糸だったのですが、その糸がとても柔らかく、これならニットが編めると考えたのです。
ジョス・ヴァネステ社と
パートナーシップを締結。
フランス国境に近いベルギーの小さな町、コルトレイクでは、リネン原料の相場を決めたり、最高品質のリネンの糸や生地を作ってきた歴史があります。この地方はフランドル地方(フランダース地方)と呼ばれ、16世紀からリネン産業が栄えてきました。私たちが手編みのカーディガンを持ってジョス・ヴァネステ社を訪れると、リネン素材への熱意や真摯な姿勢が伝わり、ビジネスパートナーとして歓迎されました。こうして、Vlas Blomme誕生の第一歩がコルトレイクで踏み出されたのです。
リネン産業に関わる人々の、
ストーリーを伝えていく。
Vlas Blommeというブランド名は、コルトレイクにある旧リネン博物館で生まれました。当時の博物館に入るとリネンの花の写真やイラストが多く飾られていました。リネンの花がとても美しいことに感銘を受け、リネンの象徴として伝えたいという思いからブランド名にしました。Vlas Blomme(ヴラスブラム)この言葉は、フラマン語でリネンの花という意味です。コルトレイクのフラックス畑では6月になると一斉に青い花が咲きほこるのですが、洋服を作るだけでなく、フラックス農家やリネン産業に関わるストーリーを伝えていくブランドにしようという想いが込められました。
日本の匠と苦難の日々を乗り越え、
リネン100%のカットソーが完成。
コルトレイクに訪れて上質なリネンを手にすることができましたが、それから悪戦苦闘の日々がはじまりました。当時のアパレル業界において、リネン100%のカットソーというものを見ることはできませんでした。リネンはもともと肌に優しいのが特徴なのに……。それなら自分たちで作ろうと考えたのですが、作りはじめてみて、どうして存在しなかったのかがわかりました。リネンの糸には節があり、伸びしろもいっさいないため、糸が切れやすく、編み機の針も折れてしまう。そのため、まともに編むことができなかったのです。工場の関係者からは「糸の品質が悪いのではないか」「もう諦めた方がいい」という言葉をいただきながら、いかに日本ではリネンを扱う歴史がなかったのかという現実を思い知らされました。しかし同時に、リネン本来の魅力を生かすことができれば、この糸の品質は高く評価されるという自信がありました。
そうして約1年間、工場と試行錯誤を繰り返し、リネンの特徴を少しずつ理解できるようになっていったのです。リネンは水分を与えると強度が増し、滑りやすくなるという性質があります。昔から船の舫網や消防ホース、パイプのジョイント部分などに使われてきたのも、リネンのそういう特性が生かされたもの。しかし、水分量が多すぎると機械が錆びてしまいます。その程よいバランスをようやく見つけ、カットソー素材の生産を軌道に乗せることができました。これらの困難な状況の中でも、製品作りにご協力してくれた編み工場やカットソー縫製工場のみなさんがいたからこそ、いまでは人気アイテムとなっているリネン100%のカットソーが実現したのです。
Vlas Blommeの製品には、
職人のこだわりが詰まっている。
その後もVlas Blommeでは、ウィンターリネン、リネンデニムをはじめ、リネンにまつわる新しい生地を開発してきました。
例えば、織物布地にもこんな思い入れがあります。普通の布は高速織機を使うことで1時間に10m以上を機械で織れるのですが、Vlas Blommeのデニム素材は1時間に1mほどしか織れません。リネンのような個性の強い素材をこなすことができる職人とはなかなか出会うことができないのです。このように熱意に共感いただいた匠の職人さんに支えられ、数々のリネン100%の織物生地をはじめとして、今では希少になった手横編み機で作るリネン100%のニットなどそれまでに市場に普及していないアイテムの数々を生み出すことができました。
パリの展示会『トラノイ』に出展。
世界のマーケットに挑戦。
Vlas Blommeでは、ブランド設立当初から、日本人が持っている匠の技や繊細さを製品にして世界のマーケットに販売していきたいと考えていました。2007年6月、リネン100%のニットやカットソーなど数種類のサンプルができあがり、その発表の場として目指したのが、選ばれたブランドだけが出展できるパリの展示会『トラノイ』でした。しかし、日本のアパレル協会に連絡すると、当時は300ブランドが参加を待っているため、そう簡単には参加できないという返事がきました。それならば直接交渉をしようとパリに赴き、『トラノイ』のオーナーに電話をしたところ、午前中にすぐ来るなら会える、という返事をもらえたのです。Vlas Blommeのサンプルを見たオーナーは、『これは素晴らしいモードだ』と感激してくださり、その場で10月の展示会に参加する許可をいただけました。
しかし、世界のマーケットに出て行くのは簡単なことではありません。私たちも、商品オーダーが簡単に入るとは思っていませんでした。4シーズン待ちは仕方がないと覚悟していたのですが、出展すると、嬉しいことに15社ほどからオーダーをいただくことができました。
リネン業界のパラダイムシフト。
ウィンターリネンを開発。
2008年から開発しているウィンターリネンも世界から高く評価され、日本のメディアでも多く取り上げられてきました。リネンは春夏に心地よい素材というイメージがありますが、ベルギーでは冬でもリネンのベッドシーツが使われています。私たちがジョス・ヴァネステ社の代表宅に訪れて驚いたのは「裸でリネンのベッドシーツで眠ると暖かいんだよ」という言葉でした。リネンの糸は中が空洞となった中空糸で多孔質。吸水性と速乾性に優れ、さらには熱量を保つ機能も備えています。つまり、今巷で冬のインナーとして出回っているスポーツ素材の原点は、リネンにあったというわけです。長年使われたベッドシーツを触らせてもらうと、驚くほど柔らかく、優しい肌触りでした。それは、洗えば洗うほどリネンの表面にケバができるため。これに想を得て生まれたのが、リネン生地の表面を意図的に毛羽立たせるという起毛リネンです。春夏の素材というイメージが強かったリネン業界において、ウィンターリネンという考え方は、まさにパラダイムシフトを起こしました。また、ウール、モヘヤ、アルパカとリネンを混合した生地や、リネンの生地と生地の間に中綿をいれた「リネンシェル」など、毎年、新たなウィンターリネンを開発しています。
Vlas Blommeは、毎年『トラノイ』に出展しながら成長を続け、現在では国内約120ショップ、海外約50ショップに卸しを行なっています。パリのセレクトショップ「メルシー」やニューヨークのライフスタイルショップ「ABCホーム」をはじめ、ファッションとライフスタイルを大事にするショップから共感いただけているのは、素材開発とデザインの両軸を追求しているからだと捉えており、これからも新たな挑戦を続けていきます。
最高品質のコルトレイクリネンを、
もっと親しんでいただくために。
私たちが大切に想っていることは、みなさんに、もっとリネンに親しんでいただくこと。リネンという天然素材は、夏は涼しく、濡れてもすぐに乾きます。そして、繊維の中に空気をため込む特性があるので、保湿性があり、冬の素材としても優れています。ヨーロッパにはキッチンクロスや寝室のシーツ、下着などにリネンが使われてきた歴史があり、花嫁と花婿のイニシャルを刺繍したハウスリネンを、花嫁道具として持って行く習慣もありました。リネンは一生大切に使い、代々、引き継がれていくものなのです。
リネンはチクチクする、という人がいますが、それはリネン100%ではないから。他の麻原料を混紡すると生産上、繊維として扱いやすくなる場合がありますが、着用を繰り返すと、繊維が折れてチクチクしはじめるのです。日本ではリネンのことをひとくちに麻と言いますが、ヨーロッパでは亜麻のことで、苧麻や黄麻、大麻、サイザル麻などとは厳密に区別されています。本来、リネンは肌に優しく、柔らかい素材なのです。
Vlas Blommeではブランド設立当初から、リネンの本質を伝えるリネンエバンジェリストとして活動してきました。リネンの歴史家であるベール・デヴェルデさんのご自宅に訪れて知識を深めるとともに、フランダース地方のリネン産業の歴史やリネンの製造工程を伝えるカタログを作り、2万部を無償で配布しました。新たな生地開発とともに、このようなエバンジェリストの活動が認められ、当時コルトレイク市長でベルギー法務大臣を歴任した政府関係者から招待を受けて、業界関係者を集めて記者発表を行ったこともあります。また、ヨーロッパリネン協会やリネン博物館の関係者との交流も大切にしています。それは、私たちVlas Blommeが、コルトレイクのリネン素材を誇りにしているブランドだからです。